「ある晴れた夏の朝」を読んだ
中学生向けのいわゆる課題図書。
「ある晴れた夏の朝」小手鞠(こでまり)るいさんの作品。
ブログが面白い友人がやんわり薦めていたので読んでみた。
50歳を目前にして老眼の進行が止まらず読書が億劫になってきた今日この頃だが、ストレスなく4~5時間で読み切ることができた 。
ざっくりとしたあらすじ。
アメリカ、ニューヨーク州のとある高校の学生8人による討論会(ディベート大会)が舞台。
議題は、広島長崎に落とされた原爆は悪か必要悪だったかを問うというも。
人種の違う8人の学生の意見を通して、アメリカによる大量殺人兵器の行使における言い訳を見ることができる面白い作品。
この小説の主題から外れて個人的に想いを巡らせたことは、アメリカの学生を取り巻く環境や雰囲気。
様々な意見や主張が存在することを良しとする、アメリカでは当たり前の人との向き合い方に心地よさを感じた。
それは、空気を読んで周囲との和を重んじる多くの日本人が陥りがちな反大勢意見の排除の姿勢とは真逆。
日本ではほとんどお目にかかれないディベート大会。
ここで真っ向から意見が対立する2つのグループが互いを尊重し合いながらリサ ーチや練習を重ね相手を論破する。
感情論は存在する。しかし、流されない姿勢が頼もしく凛々しい。
諸悪の根源だった日本の悪事を断ち切るために原爆は必要だったと主張する肯定派。
戦争を終わらせる方法は他にもあった。戦うべきは、無知や憎悪や偏見だったはず、と主張する反対派。
決して感情を無視せずしかし流されず、客観的事実を積み上げて自分たちの主張を肯定してゆく。
取り上げられた事柄には、「真珠湾を忘れるな」があり、 南京大虐殺を含めた日本人による中国への侵略があり、トゥルーマン大統領よる発言の矛盾があり、ナチスドイツのよるユダヤ人迫害があり、アメリカによる日本人移民の迫害などがあった。
ぼんやりと知っている程度の知識ではあったが、それらの事柄に対してアメリカ人目線でどう捉えられているのか知り新鮮なショックも受けた。
最後に、そもそも日本人がこの戦争をどう思っているかに焦点があたる。
原爆慰霊に刻まれた言葉。
「安らかに眠ってください
過ちは
繰返しませぬから」
賛成派が、この言葉の主語を「WE JAPANESE(私たち日本人)」と訳し、日本人自身がこの戦争で自分たちを悪だと認識していると主張。
原爆の投下を日本人自身が肯定している、という結論を導き出している。
一方反対派は、「WE」は人類全体を指していると主張。日本人は主語を言わずともこの共通認識を持っている。
人を殺し合う理由に言い訳などない。
日本人は、自分たちのした過ちを悔い、原爆により失った多くの命を想うということ。
このディベートの勝ち負けは本文中に明らかになっていない。
あったのは、激論を繰り広げた両者をお互いに賞賛し合う姿だ。
読者に「あなたはどう思いますか?」 と問う形で締めくくっている。
再び主題から外れるが、わたしはアメリカの大学を卒業している。
アジア人で英語がつたないわたしを面倒くさいと無下に接する者がいた一方で、受け入れ、楽しんで、 喧嘩もして青春の謳歌を共にしたアメリカ人の多さを思い出した。
作中に出てくる「雲ひとつないコバルトブルーの空」に思いをはせ、通った大学のキャンパスから見た空と重ね合わせる。